なんぼ軽くても寝ていなるだろうと思うてきた

上天気、鐐之助、早くから起き出してこまをまわすが思うように回せない.そのうち朝飯の仕度ができたので“御飯を食べてからまわすがよい、御飯を食べてないからうまく回せないのだ”というと、止めて膳に向かい、涙をポロリと落とした.自分でもそう思ったのだろう.“もうこまは止めにして弓にしなさい.こまは町方の者の遊び、弓はお侍の射るものだ.早く御飯を食べ、弓を射てごらん”とだまして機嫌を直させた.

 朝飯が終わると弓を始めた.射るところは昨日と同じ.そこへ根津のおみきが見舞いに来てびっくりした.“おや、鐐さ、今頃は寝ているだろうと思った.こりゃまた、なんと軽いことだろう.健治にもこういう軽い疱瘡をさせたい”という.健治にと菓子を持たせた.今村、山崎へも見舞いの返礼に菓子をやる.

 善蔵が米搗きに来る.新屋敷のおじいさまが見舞いに来て下さる.ちょうど、鐐之助が的の上で小さなこまをひねりまわしているところだった.“まさか今日起きているとは思わなかった.これはこれはなんと軽い疱瘡か!”と喜んでお帰りになった.須藤のおすえ、菓子を一箱持って鐐之助の見舞いに来て、鐐之助の遊んでいるのを見て、次第に涙声になる.子を亡くしていればもっとものことだ.横村春蔵、不幸見舞いの返礼に来た.

 昨日も人の出入りが多く何もできなかったので、今日はざるの古いのを二つ修繕した.おばばが“わたしが張ったのと違い、おじいさのは丁寧だから、ギシギシ音を立てきしむほど堅く仕上がる”と喜ぶ.

 白川民蔵、疱瘡見舞いに来る.長谷川のおじいさ、太白せんべいを一袋持って見舞いに来られる.菓子を少々さしあげると「あやかりもの」だと喜んでお帰りになる.忠太夫が見舞いに来る.大池嘉蔵も見舞いに来る.野本のおかみさん、モロコ五串、菓子を小袋一つ持参して“これは御見舞ではございません、ほんの手みやげでございます”と断り、下さる.子どものいる家から見舞いをもらえば、何処へも菓子を少しずつお返しをした.

 鐐之助、昼から弓を射て遊ぶ.留五郎に髪月代をしてもらう前から射続けて、結び終わっても射ている.床の間の壁に板を立てかけ、壁際にも立てかけているが、板から逸れて壁に突き刺さるのもあれば、床のふちに当たりはね返るのもある.都合よく命中すると大喜び、我を忘れ、矢を目がけて飛んで行く.

 手の指の腹や掌に発疹ができている.これを見て“どうしてマメができているのだろうね、おじいさん”というので、“マメではない、それが疱瘡だ”というと、“ふぅ~ん”と呆れた顔をして見ている.そこで鏡を見せると“これはおかしい、これはイヤらしい顔だ”と笑って見ている.発疹のたくさん出たのは中刺(なかぞり 註:頭の頂きの剃った部分)から前の方、ひたいに二十四、五、そのほか手足はまばらだ.

 昨夜の片山の衆の話では、四つ、五つ出たのでは紛らわしい.鐐之助の疱瘡はまことに気味よく出て判りやすい.おまけに、十のものを一つで済ますような疱瘡だ、大仕合わせだ、とのこと.おばばも最初のうちは熱が出たと大心配し、十二日の間そばに付き添って看病しなくてはなるまいと覚悟していたが、まるで手がかからず、夜などおばばがいなくても済みそうな程だ.というわけで、誰もが大安心している.夜に入り四郎兵衛、玉子をを五つ持って見舞いに来る.横村から菓子をもらう.

            (天保十三年 十月十八日 「桑名日記」)

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です